お金が使えないの怪?
イギリスのポンド紙幣は、イングランドのイングランド銀行が発行する紙幣が全国的に通用します。スコットランドにはスコットランド銀行のほか二つの銀行が発行する紙幣が有ります。従ってイギリスには同額の紙幣でも、四種類の紙幣が存在する事になります。
イギリス南部のイングランドでは、北部のスコットランドの紙幣が使えない場合がよく有ります。私も実際にそれらしき経験をした一人です。イングランドのスーパーマーケットでワインを買いに行った時のことです。レジでスコットランド銀行発行の50ポンド紙幣を差し出したところ、レジの若い女性はその紙幣を珍しそうに眺めまわした後、店内電話で店のマネージャー
らしき人を呼び出しました。
跳んで出て来たマネージャーもその紙幣の裏表を何度もひっくり返して見て、今度は店の事務所に電話をし始めました。電話が終ると、今度は私の支払ったスコットランド紙幣を、紙幣鑑別機らしき機械にかけて調べ始めたのです。そして検査の結果、その紙幣の使用が目出度くOKとなりました。
♀お~、うまいことやったね。
♂ん????
何かまずい事やった?
♀いやいや、これでやっと旨い酒が呑めるんでしょ?
♂何か疑っているね。
ニセ札を持って行った訳ではないんだよ。
イングランドの彼らにとってはスコットランド紙幣は正体不明のお札だったようです。イギリスでは50ポンド紙幣(日本円で約7千円弱)自体があまり流通しておらず、スーパーや小売店で出すとあまりいい顔をされません。ましてスコットランドの50ポンド紙幣など、イングランドに住むレジの若い女性もマネージャーも見たことが無くて、受け取っていいものかどうか心配だったようです。そこで経理担当者に電話して、銀行ですぐにイングランドの紙幣に交換できるのかを確認していたのではないかと思いました。
♀それにしても不便なお札が有るもんだ。
日本円をこのスコットランド紙幣に両替する時にも面白い体験をしました。
両替をしようと思ってエジンバラの中心部から少し外れたところにあるザ・ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドという銀行の小さな支店に行った時の事です。窓口の若い女性行員に1万円札数枚を差し出してポンドへの両替を申しこみました。彼女はその1万円札の裏表を何回もひっくり返しながら珍しそうに眺めたあと、こんなお札見た事が無いというような顔をして困ったように首を傾げていました。
そして隣の鼻メガネを掛けた、いかにもどっしりと安定感のある年配のおばちゃん行員と一言二言ことばを交わすと、おばちゃんから5センチもある分厚い本を受け取って目次を頼りにパラパラとめくり始めたのです。それは世界中の紙幣の見本が載っている本でした。日本紙幣のページを探り当て、何種類かある歴代の1万円の中から私が差し出した1万円札と同じものを見付けた彼女は、見比べる事しばし。やっと納得したように、にっこりとした笑顔をこちらに向けて両替用のポンド紙幣を数え始めました。
♂駄目だと言われたら怒るよ、
♀こちとら江戸っ子だい!ってかい?
♂我が1万円札は、
イングランドでは正体不明のスコットランド紙幣とは訳が違うんだい!
でも、紙幣鑑別機に掛けられなかっただけでも素直に良しとするか。
♀本物のお札が解らない位だからニセ札検査も出来ないんじゃない?
♂そう言えばそうだね。
という事は・・・・・・・・・・だね。
♀ヤバい事に気が付いちゃったね。
♂よせよせ、そんな事しちゃいけないよ。
その分厚い本を覗き込むと、そこにはまさしく日本の歴代の千円、5千円、1万円紙幣の写真が載っていました。小さな支店の若い窓口銀行員にとっては、初めて目にした日本円だったようなのです。私にとっては初めて目にした「世界の紙幣の本」でした。自分の名前とパスポート番号をサインし、やっとのことでポンド紙幣を手にする事が出来ました。
イングランドで使えないスコットランド紙幣なんて不便極まりないと思う以前に、何で同じ国なのにそんな複雑な事をしているのと言いたくなります。スコットランドは現在でも自前の貨幣を発行出来る程、イギリスの歴史の中で強い力を持っていると言う事なのでしょう。
♀いつでもイギリスから独立してやるって魂胆かな?
♂そう、最近のスコットランドの地元の人たちの約半数位は、
イギリスからの独立に賛成していると言われているんだ。
ちなみに、このスコットランド紙幣は日本の銀行に持ち込んでも、円に両替をする事が出来ない厄介な代物なのです。スコットランドから帰国する際には、スコットランド紙幣を全て使い切るか、イングランド紙幣に交換しておかないと、日本に持ち帰って来ても紙屑同然になってしまうのです。この紙屑同然になったお札を生かして使うには、もう一度スコットランドに行くしかありません。