忍者のブログ

海外旅行をした時に、これは何故?どうしてこうなの?と思うことがいろいろ有りました。面白い話や常識では解らない話など物語風に少しづつ書いて行きたいと思います。

■ 曲がりにくいの怪? ■

久し振りの『~怪?』ブログです。

 

  • 曲がりにくいの怪? ■

 

 

    車で街を走ると、イギリスでは日本と同じ左側通行で、なおかつ右ハンドルなので、日本人にとってはとても運転し易いのですが、困ったことがひとつ有ります。運転席のウインカーとワイパーのレバーが日本車と比べて左右逆に付いているのです。

   交差点を左折しようと思って、右手の指でウインカーのレバーを左折操作すると、いきなりフロントガラスの前でワイパーが動き出すのです。あっ逆だ! あわてて左手でウインカーのレバーを操作し直し!

   次の曲がり角でも自信を持って勢い良く右手の指でウインカーを操作すると、またワイパーがカチャ、カチャと勢い良く動き出してしまいます。

          A何だこりゃ! 

             何回やってもワイパーが動いちゃう!

                 B学習効果の無い人だね。

体で覚えた習性というものはなんと恐ろしいものだ、という事に気付いた私でした。

アメリカでは車は右側通行で運転席も左ハンドル。従ってウインカー、ワイパーのレバーも日本車とは左右逆。これは全て日本車と逆という事で良く理解出来るのですが、イギリス車は日本と同じ左側通行で右ハンドルのくせに、ウインカーレバーとワイパーレバーだけは日本車と左右逆に付いています。ということは、欧米の車は、右ハンドルの車であっても、左ハンドルの車でもウインカーレバーはハンドルの左側に、ワイパーレバーはハンドルの右側に付いている事になります。

                 B何なのそれ! 

                   レバーの左右の位置は日本の車だけがおかしいの?

                   それともイギリスの車がおかしいの?

         Aイギリス車はメーカーによって違うみたいだよ。

                  Bでは日本の車もメーカーによって違うのかい

         Aそんな事は聞いた事無いよ。

     Bイギリスの車だけがおかしいのかな?

      やっぱり解りにくいよイギリスさん。

 車に詳しい人に話を聞いたところ、ウインカーレバーとワイパーレバーの左右の位置は、ギヤーレバーの位置に関係があるとの事です。ギヤーチェンジ用のギヤーレバーは、マニュアル車もオートマチック車も国を問わず車の中央に付いていて、右ハンドル車はギヤーのシフトレバーを左手で操作するため、ワイパーより使用頻度の高いウインカーレバーは空いている右手で操作するようになっているとの事です。左ハンドル車の場合はギヤーのシフトレバーを右手で操作するために、ワイパーより使用頻度の高いウインカーレバーはハンドルの左側に付いているのだそうです。

   Aそう言われてみると、確かに理に叶っているね。

     Bじゃあ、さっき乗ったイギリスの右ハンドル車のように

左手でギヤーのシフトレバーを操作して、なおかつ左手でウインカーを

操作するようになっているのはおかしいんだ。

   Aおお、やっぱりイギリスの車はおかしい!

     B不良品だったんじゃないの?

   A不良品をレンタカーで貸すかい?

     Bイギリスではそんなこと気にしないんじゃない?

   Aイギリス人はおおらかでいいねぇ。

     Bおおらかと言うよりズボラなんじゃない?

 その後友人から聞いた話では、欧米の車はハンドル部分を軸から一体成型をしているので右ハンドル車であろうが、左ハンドル車であろうが、左がウインカー、右がウインドウオッシャーになっているという事でした。彼は何台もの欧州車に乗り慣れているのでよく知っていたのです。本来は左ハンドル車用に一体成型されたハンドル周りの軸を右ハンドル車にそのまま使用しているのでこんな混乱が起きてしまうのです。日本車は初めから右ハンドル車用の軸を一体成型にして作っていたので、右がウインカーになっているのです。

     Bやっぱりイギリス車はズボラなんだ。

左側通行っていうのが分かっているんだから

始めから日本車と同じに作ればいいのに。

   A国内での使用より輸出を優先して考えていたんだろうね。

    2019年のイギリスの自動車輸出比率は79.8%なんだって。

     Bそんなに輸出してるんだ。

      国内での使用が2割じゃしょうがないね。

   A欧州ではイギリスと陸続きのアイルランドの2国だけが

    左側通行なので、自分の国は二の次になってしまったんだね。

     B他国のために自分達が不便をしていて、

      イギリス人って偉いんだか何だか解らないね。

   A不便を感じているのはイギリス車を運転する日本人だけで、

    彼らは当たり前だと思っているから何も問題にしていないんじゃない?

 ちなみに、現在左側通行をしている国はイギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、インド、インドネシア、香港、タイ、マレーシア、シンガポールスリランカ南アフリカ共和国など、小さな国も含めると50ヵ国以上の国が有るようです。

     Bこんなに多くの国の人がおかしなハンドル周りの車を運転している

                    のかなぁ。まさに大英帝国の名残りだね。

 

 日本でもおかしな車が走っているという話を聞きました。

中央高速道の調布付近の直線コースを1台のセダンが時速100キロ位で品良く走っていると、追い越し車線を130キロ位の猛スピードで追い抜いて行く黒塗りのベンツを確認しました。追い越され際にセダンの運転席からそのベンツのリアウインドに目をやると、そこには高齢者が運転をしていることを示す枯葉マーク(?)がぺったんこ。

          「何っ!70過ぎた爺さんが何であんな運転しているんだ?

     どんな爺さんなんだ?追っかけろ~!」

 黒のベンツに乗るスピード狂の爺さんに興味を持ったセダン氏は、猛然とスピードを上げて枯葉マークのベンツを追いかけること数分。やっとのことで追い着いて、運転席を横目で見てビックリこ。運転していたのはスピード狂の爺さんどころか、40過ぎのでっぷりとした体格。何とツルツルのヘッドスキンに真っ黒なサングラスの恐そうな男!明らかにその筋のお二イさんって感じ。

                  B恐っ~!

寄って来られたらまずいと思ったセダン氏は思わずアクセルを踏む足を緩めてしまった。だが次の瞬間、その恐そうなお二イさんが、何と自分の会社の同僚部長である事に気が付いた。

     「えっ! あいつ、何やってんだ!」 

 次のサービスエリアに入った恐いオ二イさんベンツの後を追って自分の車を横に着け、そのお二イさんに「枯葉マーク付けて、何て運転してるんだよ。」「いやー、えらいところを見つかっちゃったな。実は親父の車を借りてちょっと河口湖まで行く途中なんだ。」

   Aよしなさいよ。

     枯葉マークの付いたベンツを運転するときは、

    それらしくもっと品良く走ってよ。

    ただでさえ恐そうな体型してるんだから。

サービスエリアを出た恐いお二イさんベンツは、行く手に立ちはだかる車の波をかき分けて遥か先を走り抜けて行ったそうな。

   Aそんな恐そうなお二イさんベンツに後ろから煽られたら、

              誰でも道を空けちゃうね。

     Bそのうちに本物の恐いお二イさんと

       追いつ追われつやったら面白いのにね。

                    しかも本物のお二イさんが免許取ったばかりだったりして。

A枯葉マークの黒ベンツと若葉マークの黒ベンツかい?

  そりゃぁ枯葉の黒ベンツが逃げ切って勝ちさ。

 

     B何で車の構造とは関係ない話になったの?

   A乗っている人間の構造のこと言っているんだよ。

     B人間の構造って?体形や人相のこと?

   A急いでいたとはいえ、枯葉マークの付いた車で

     猛スピードを出す人間の精神構造だよ。

     B????

■ 幻だったの怪? ■

   ■ 幻だったの怪? ■

 

 バースに滞在中にB&Bのスタッフのお嬢さんにバースで一番のスポットを教えてもらいました。宿泊しているB&Bの近くを流れる川のほとりを少しさかのぼり、白い橋を渡って舗装道路をひとつ渡って、鬱蒼とした木のトンネルを通り過ぎると、広々とした芝生一面の丘陵が目の前に開けてきました。その丘陵は何処までも続いています。牧場になっているのか、遠くに馬が2、3頭、食事の真っ最中。私はその芝生の坂を1人でどんどん登っていきます。ここを登る時は途中で振り返ってはいけないと言われていたので、丘の頂上を目指してまっしぐらに登っていきました。やっとのことで頂上付近に到着。そこで初めて後ろを振り返ってみてビックリこ!

   こりゃ、絶景かな、絶景かな!

そこはバースの街が全て見張らせる素晴らしい場所だったのです。盆地状の土地に広がる箱庭を思わせるような美しい街が眼前に広がっていました。180度に広がる一大パノラマの景色にしばし呆然。こんなに素晴らしい景色に出会ったとは大感激!

その場を離れるのが惜しくて、そこに佇むこと小1時間。美味しい空気を目いっぱい吸い込みながら周囲の景色を堪能していました。

翌日も夕食の後、あたりが暗くなり始めた9時過ぎに部屋を出て、明かりの無い夜道を丘の頂を目指して登り始めました。9月も末の雲一つない爽やかな夜です。途中、ランニングをしている五、六人の男女とすれ違いました。そのまま通り過ぎると思っていたら、1人1人がみんな「ハロー」ってな声を掛けてきました。

   こちらも負けずに「ハロ、ハロー」

    イギリスの若い人は気持ちがいいねぇ。

    空気はいいし、爽やかだし、若者も清々しいし、

まるで天国に昇った感じ。

だけど、自分は1人っていうのも寂しいね。

   天国に行くときは誰も連れが居ないのがあたりまえ。

     誰か1人でも一緒に連れて行けば?

   それでは、今から君を指名しておこう。宜しくな!

その夜景の美しさといったら何とも言えないくらい。遠くに見える真っ暗闇の中にオレンジ色の街灯の列が碁盤の目のように浮かび上がる風景は、まさに幻想の世界なのです。

 更にその翌日。3度目は小雨の夜。雨二モ負ケズ傘をさして丘の上へ。雨に煙るバースの街も、何とも落ち着いた雰囲気で、また一味違った趣に包まれていました。

   こんな素晴らしい景色を1人で見るのはもったいない。

    よし、次回はきっと誰かを連れて来よう。

この丘は、どの案内書にも載っておらず、普通の観光客には絶対に来る事の出来ない場所。地元に住む人しか知らない場所なのだそうです。

こんなに素晴らしい場所を教えてくれた

B&Bのスタッフのお嬢さんに感謝、感激、雨、みぞれ!

     はぁ????

その時以来この景色をもう1度見たいと思っていた私は、4年後に再びバースを訪れました。

今度は家内と、息子と、その友人を連れて。

     なんだ、僕を連れて行くんじゃなかったの?

      天国に行ってみたかったのに。

   昇天するにはまだ早いでしょ。

     まあいいや。

「幻想的な夜景を見せるから」と言って、夕食を終えた9時過ぎに、霧雨むせぶ真っ暗な坂道を、傘を手に手に丘の頂を目指して登り始めました。途中、後ろを振り向かないようにと言いながら、あの素晴らしくも幻想的な夜景を心に描きつつ、それを3人にも見せてやりたい一心で。

「どこまで登るの?」とブツブツ言い出す3人をなだめすかして、やっと到達した頂上で、「さあ、ここで一斉に後ろを振り返って」と言いながら自分も後ろを振り返ったとたんにまたビックリこ。

   エッ? ウッ? オッ?

 見えたのは、心に刻んでいたあの幻想的な夜景ではなく、どこでも見られるごく普通のありふれた夜景!

「なにこれ?」「どこが幻想的なの?」「ウッヒャッヒャッ!」

うしろからいきなり冷やかな声が3つ。私の背中に突き刺さったのです。

最後の笑いは何なんだ。

そして私自身の口からもう1度出た言葉。

   なにこれ?ウソだろ?どうしちゃったの?

唖然とした私は、ここは何処?私は誰?状態に陥る!

   幻想的な夜景を見せると言って・・・・

雨の夜に3人も連れて、・・・・・・・・

    30分も歩いて来たのに・・・・・・・・

    まるでペテンにかけられたようだ。

     ほかの3人のほうがペテンにかけられたと思たんじゃない?

そこで逆にペテン師の烙印を押されちゃった訳ね?

   まぁ、それに近いかもね。

真っ暗闇の中にオレンジ色の街灯の列だけが、道路に沿って碁盤の目のようにひっそりと浮かび上がっていた、あの幻想的な雰囲気を醸し出していた4年前の夜景は何処へ行ったのでしょうか。3回も見に行って、心に焼き付いていた景色なのに!

    可哀そうなのはこの子でござい、だね。

     それでペテン師を返上出来たの?

   いや出来ていない。もう1回連れて行かなけりゃ無理だね。

    幻想的な夜景は絶対ある筈なんだから。

ホテルの部屋に戻って1人で自主反省会。

     何だい、そりゃ!

つらつら考えるに、

前回見たのは9月の末、

今回は8月の真っただ中。

時期的にも1カ月以上の差が有ったんだ。

  それが何だっていうの。

 あの幻想的な夜景は、夏が過ぎて街が落ち着きを取り戻した9月下旬以降の9時過ぎでないと見られないのだろうという結論に達しました。8月さ中の書き入れ時に、街中の店は賑やかに明りを付けて夏の宴の真っ最中だったのです。まさに煌々とした街の明かりが、かつて見た幻想の夜景を見事にかき消していまっていたのです。

   絶景を見るのは時期と時間が大切だということが良く解ったよ。

     いつでも同じ景色が見られる訳じゃないんだ。

      せっかく良い景色を見せてやろうと思ったのに、

      結局、その幻想の世界は3人に伝わらなかったんだね。

      お互いにかわいそうなことをしたもんだ。

      おまけにペテン師のままで。

   それにしても息子が発した最後の「ウッヒャッヒャッ!」が

いつまでも耳を離れなかった・・・・

 ♀ああ、可哀そう。

幻想的どころか、幻の夜景になっちゃったんだ。

      もう1回行くしかないね。

   次は君をあの幻想的な天国に連れて行ってあげよう。

     まだもう少し生きていたいからノーサンキュー!

■ 騙し合いなの怪? ■

  ■ 騙し合いなの怪? ■

 

 イギリスの集合住宅。日本で言う4階以下のアパートです。現地ではその住宅の事をフラットと言っています。先程も言ったように、その多くが200年から250年も経っていて、分厚い石を積み上げた重厚な石造りの家なのです。1階の建物全体の入り口に鍵が付いていて、自分の部屋からオートロックで出入り口の鍵を開けられるようになっています。外部の人間が勝手に入って来られないようになっているのです。当然のことながら、その住人は皆自分の部屋の鍵と、1階の入り口の鍵の両方を持っています。これは日本のマンションと同じです。しかし、郵便ポストは日本のように1階に集中して付いてはいなく、各部屋に付いているのです。

     B:ずいぶん中途半端な作りだね。

        エントランスのドアを少し引っ込めて

                       ドアの外側に個人別の郵便受けを取り付ければいいのに。 

   Aイギリス人はそんな手の込んだ事はしないの。

     B:まぁ、いっか。

                        それじゃあ、郵便物はどうやって届くの?

  ポストマン(郵便配達人)は先ず建物の1階の外側に付いている部屋ごとのブザーで、目的の部屋を押し、インターホンで「ポストマン」と言って郵便が来た事を告げます。届ける目当ての人が部屋に居れば、その人が自分の部屋から1階入り口のロックを開錠します。するとポストマンは階段を上がって行って届け先の部屋のドアに着いているポストに郵便物を届けます。これはごく普通のパターンです。

     B:これで配達が完了すれば問題ないんだね。

   Aそう、でも相手がいない場合は郵便屋は奥の手を使うんだ。

   ブザーを押した時に部屋に相手が居ればいいのですが、不在の場合は、ポストマンはその郵便物を再び届けに来なくてはなりません。しかし、1階入り口の鍵が開きさえすれば、部屋の前まで上がって行くことが出来、相手が不在でも郵便物を部屋のポストに届けられるのです。

        B:そりゃ、そうだ。

  そこでポストマンも考えたものです。1階の外壁に付いている各部屋のブザーを端から順に誰かが応答するまで押し、誰かが応答するとインターホンを通じて「ポストマン」と言って建物入り口の鍵を開けさせるのです。鍵を開けた住人は自分の部屋に郵便が来ると思って待っているのです。

  ポストマンとしては1階の鍵が開けばしめたもの。鍵を開けてくれた部屋には行かず、郵便の届け先である別の部屋に届けていくのです。

  だから、ブザーが鳴って郵便が来るのかと思って1階の鍵を開けても、自分の部屋に来ない事が良くあります。

        B:昔は家のブザーを軒並み押して

                        逃げて行っちゃう子供が良くいたね。

          玄関に出ていくと誰もいないってやつね。

    A一時流行ったね。ピンポンダッシュと言って。

     でも、こっちは仕事でやってるんだ。

  ブザーが鳴って「郵便です」と言われれば、誰でも自分宛てだと思って1階の鍵を開けるでしょう。

        B:そこが郵便屋の狙いなんだ。

  全部の部屋の住人が不在と言うことは無いだろうから、誰かしら居るだろうというポストマンの狙いなのです。

                  B:こりゃ、当て馬っていうやつだね。

                       よく考えたもんだよポストマン!

 彼らの仕事の知恵が生み出したものなのだなぁと妙に感心をしたものでした。でも、そのあとで新聞配達も同様の方法でやって来ました。という事は、「ポストマン」とか「ニュースペーパー」とか言えば、部屋に居る誰かが1階の鍵を開けてくれて、誰でも建物の中に入る事が出来るという事になります。部屋の鍵だけはしっかり掛けておかないと、とんでもない事になりかねないという事です。

 私も初めのうちは部屋のブザーが鳴ってインターホンから「ポストマン」という声が聞こえると、部屋のオートロックで1階の鍵を開けていましたが、ポストマンのやり方が解って来ると、誰か他の人が開けるだろうと思って、自分が部屋に居ても知らん顔をするようになりました。

                 B:よく気が付いたね、日本人!

          郵便屋と住民の騙し合いだね。こりゃ。

          各部屋の全員が知らん顔していたら、今日の郵便は届かないね。 

          全員が毎日知らん顔をしていたら郵便は永遠に届かないのかな?

          A在宅の家が3軒あって、ブザーが鳴っても3軒とも知らん顔をしていたら

                その日の郵便は届かず。

                 次の日も同じ3軒だけが在宅していて知らん顔していたら

                 その日も郵便は届かないよ。

                 B:誰か開けてあげてよ。

              郵便屋が可哀そうじゃない!

         A毎日同じ家が在宅で無反応って事もないだろうから、そのうち届くだろうね。

                 B:何とかなりゃいいんだ。急がない、急がないの精神だね。

                      じゃあ、宅配便はどうするの?   

      A日本のような宅配便専門業者は無くて、

               小包等も全て郵便屋が届けているね。

               不在の場合は不在連絡票がポストに入っているよ。

                B:例の手を使って不在連絡票を入れていくんだね。

      A荷物がポストに入る程度に小さければポストに入れていくけど

      大きな小包の場合には不在連絡票を入れていくね。

           でも、日本のように電話で再配達を頼むことは出来ないんだよ。

        B:どうして?

      A不在連絡票には指定した郵便局に取りに来いと書いてあって

   翌日以降にパスポートを持って行かないと駄目なんだ。

                B:ずいぶん殿様商売をやってるんだね。

      A伝統を重んじる国だからねぇ。

         一度決めたらなかなか改善しないんだよ。

        B:小回りが利かないイギリスっていうとこだね。    

      Aでも最近ではクロネコヤマトがイギリスにも進出しているってさ。

        B:宅配便の便利さをイギリス人が理解するかなぁ。

      A気持ちの上でゆとりを持って生活しているんで1日や2日の

               郵便物の遅れは気にしないんだよ。

              1週間遅れても平気で配達してくるからね。

           B:それじゃ、宅配便も必要のない物の範疇に入っちゃう訳ね。

 

 

   

■ 教えてくれないの怪? ■

  • 教えてくれないの怪? ■

 

 

 欧米の列車は、発車時刻が来ると黙ってスルスルとホームを出て行ってしまいます。列車が駅に入線してくる時も静かなものです。ホーム自体がとても静かなのです。

 日本の駅のように、「まもなく1番線に上野行きの電車が来ます。危ないですから黄色い線の内側にお下がりください。」「ドアが閉まります。ご注意ください。発車間際のご乗車は危険ですからお止めください。」なんて放送は一切無く、まして「ピーッ!」なんて笛も全く無いのです。

   A最近は何故かJRの笛も少なくなったね。

     B:一昔前は、ドアを閉めるぞ、早く乗れ「ピーッ!」って感じだったけどね。

       民間会社になったので上から目線の「ピーッ!」はやめたのかな?

 イギリスの列車は黙って静かにホームに入って来て、黙って静かに発車して行くのです。それはそれは、駅の中全体がとても品のいい雰囲気に包まれているのです。

 

 エジンバラから、南部の都市バースに7時間の鉄道旅行を楽しむべく、朝10時5分発の列車を目指して出掛けて行きました。市の中央部にあるウエイバリー駅のプラットホームに発車10分前に着きました。

 列車の出る13番ホームに行くと、そこには既に列車が止まっていましたが、まだ客は皆ホームで待っていて誰も列車に乗り込んでいません。ホームに設置されているモニター画面で確認すると、時間もホームも間違い無く合っていて、まさに私が乗る列車が目の前に止まっているのです。でも、まだ清掃中かな? 行き先は~と列車の乗降口の周りを見回したのですが、どこにも見当たりません。

 窓の外から列車の中を覗いて見てびっくり! お召し列車のように超豪華! シートが全部ラウンジ風でゆったりこ。映画にでも出て来るように豪華で華麗!7時間の列車の旅なので奮発して1等車の切符を買ってはいるんだけど、何でこんなに豪華な列車なの?

   A:いいねぇ、イギリスの1等車ってこんなに豪華なんだ。

     これなら7時間乗っても飽きないね。

でも発車5分前になってもホームで待っている人は誰も乗り込まない。心配になって、プラットホームにいた男の駅員に列車を指差しながら切符を見せて、この列車の1等車はどの辺かと聞いたところ、列車の方を指差して、乗れば車中で案内しますとのこと。

      B:そうなの? 

 そうこうするうちに発車1分前。でもまだ誰も乗り込まない。心配になって、もう一度近くを通った別の女性駅員に切符を見せながら同じ事を聞くと、乗れば車中で案内します、とこれまた同じ答え。誰も乗り込まないし、普通の1等車にしては豪華すぎる。乗るか乗るまいか迷っているうちに、列車は誰も乗せずにスルスルと静かに発車してしまった。あれよ、あれよ と言ったところでもう遅い!

 見送った列車の最後尾の展望車に白いシャツを着て荷物を持った若い男女が5~6人乗っているのが見えた。

   A何だこりゃ? 客が乗ってるじゃない!

     B:乗るべきだったの?

 それから30秒も経たないうちに、同じホームに別の列車が入って来た。今度は行き先が書いてある。おぉ、これこそ我が乗るべき列車だ! さっきの列車は何だったんだ。乗らないで、良かった良かった。もし乗ってしまったら何処に連れて行かれるか判ったもんではない。それにしても駅員の随分と不親切なこと。

     B差し出した切符をろくに見もしないで!

        揃いも揃って二人共ってかい? 

  ところが後で分かって驚いた。あの豪華な列車は、エジンバラを起点として運行されている『ロイヤル・スコッツマン』という「超豪華列車の旅」用の車両だったのです。

   Aそういえば列車の外側に、確か『ロイヤル・アンパンマン(?)』

      とかなんとかって大きく書いてあったような気もするなぁ・・・・

 9両編成なのに客の定員は僅かに36名。寝台個室、レストラン、ラウンジ、展望車など至れり尽せりの列車で、車内泊4泊5日食事付きの旅でツインルームがお1人様60万円を超えるそうな。

     B:何だいそりゃ!贅沢な列車だね

   A:少なくとも庶民の乗り物じゃない事は確かだ。

      旅行中の外国人が乗り込まなくてホントに良かった。

     Bでも、その時に乗り込んでいたらどうなるか

       オモシロかったろうなぁ。

      何で乗ってるんだって怒鳴られたりして・・・・

    A:怒鳴られたら、ソントキノイノキだって怒るよ。

     『日本にゃこんな紛らわしい止まり方をする列車は無いっ!ダーッ!』

     B:アントキノイノキでしょ。

   A:この時はソントキなの!

 

 でも、家を出るのが遅れて発車時刻間際に駅に飛び込んだ日本人なら、目指すホームと時間に列車が待っていれば、まずその列車に飛び乗ってしまいますね。地元の人は皆『ロイヤル・スコッツマン』を知っていたので誰も乗らなかったのでしょう。

   A慣れない日本人が乗ろうとする列車の同じ時間、同じホームに、

      ダイヤに載っていない関係の無い列車を止めておかないでよ!  

 更に後で分かった事。『ロイヤル・スコッツマン』は通常20番ホームから発車し、発車時刻は午後1時30分、出発に当たっては乗車口で歓迎のバグパイプの演奏付き。旅行中、列車内での夕食時刻から翌朝8時迄の間は列車は走らず、豪華レストラン、豪華ホテルの役目を果たすとの事。振動でワインや食事がこぼれないよう、寝る時も振動が無く安眠出来るようにと、止まっている事に価値を見出しているのです。見た目の通りそれはそれは贅沢な列車だったのです。

     B:それじゃぁ、朝、13番ホームに止まっていた

       あの『ロイヤル・アンパンマン(?)』はいったい何だったの? 

       最後尾の展望車に乗っていたその白いシャツ姿で荷物を持った若い男女は何だったの? 

 

 今考えるに、『ロイヤル・スコッツマン』は午後の発車に備えて13番ホームに取り敢えず入線したあと、時間調整のために暫く止まっていたのです。そして定刻に発車する列車が後から来たので、知らん顔をしてそ~っとホームを出て行った。

 最後尾に乗っていた若い男女は客ではなく、制服を脱いで白いシャツ姿になっていた乗務員で、持っていた荷物は旅行用のバッグではなく、乗務員用のバッグだったのです。

 そうとしか考えられないのです! その間、ホームでのアナウンスは何も有りません。何も言わな過ぎというのも、慣れない旅行者にとっては過酷な事です。とは言っても案内の放送が流されたところで、どうせ早口で言うのでしょうから英語の苦手な私にとっては放送が無いのと同じなのですが。

 でも、いいかげんな返事をした二人の駅員だけが未だに理解出来ません。妙な東洋人が聞いたのでからかったのかな?

 あとで聞いたところによると、『ロイヤル・スコッツマン』は特別な列車なので、それを運行させている会社は普通の列車の会社とは別会社が経営しているとの事が分かりました。そのために、ほかの会社の一般の駅員はこの列車の様子が分からず、聞かれた時には車内で案内しますと答える事になっていたのかもしれません。プラットホームにいた男と女の駅員が同じ答えをしたところからすると、そんなところかも知れません。

 イギリスの鉄道は、同じ線路の上を幾つもの会社の列車が走っており、プラットホームもどこどこの会社用とは区別されていず、複数の鉄道会社が共用しているのです。

     B:車両と乗務員は持ち込みで線路とホームの施設は共用ってこと?

       それじゃ、駅員も別の会社の列車の事は良く判らない筈だね。

   A憎っくきは『ロイヤル・アンパンマン(?)』と二人の駅員!

     Bそりゃ、豪華列車に乗れなかった腹いせというものだね。

 幸いにも私が間違わないで無事に乗れた列車は、荷物を所定の位置に収めて座席に着くと間も無く、発車の予告も無しに静かに動き始めていました。

   A発車の実感がまるで無いんだよ。

     B:イギリスの列車は全く品がいいんだねぇ。

   A:でも品が良すぎて私にゃ解りにくかったね。

割れないの怪?

エジンバラの街なかで靴屋のはしごをしたので、歩き疲れて喉が渇いてきました。

ワインを一杯だけ飲んでいこうと言う事で、運河沿いにテーブルを出している洒落たレストランに足を運びました。食事ではないので、酒を取り揃えているカウンターに直接行き、グラスワインとオリーブを注文しました。

   カウンターの中で店のお嬢さんが新しいワインの栓を抜き、ワイングラスにワインを注いだあと、料金を払う前に「店の中で飲みますか?外のテーブルで飲みますか?」と聞いてきました。天気も良いので、外の景色を眺めながら気分良く飲みたくなり、外で飲む事を伝えたところ、そのお嬢さん、グラスに注いだワインを二つ共サッと別のグラスに入れ替えてハイどうぞと言って出して来ました。

 A:ちょっと待て。                                        

     客の目の前でワインを別のグラスに入れ替えるの?                       

妙な事をするなぁ、何故入れ替えたんだ?                           

   B:グラスの汚れに気が付いたんじゃない?                          

A:二つとも汚れていたんかい?                                  

いやな店に入っちゃったな。                                 

店の中で飲むのか外で飲むのかって                              

聞いたのは何故?                                        

   B:店の中と外では値段が違うとか。                             

A:いや、同じ値段だったよ。                                   

  B:店の中にはバニーコスチュームの                               

可愛い子ちゃんとか。                                    

A:そんな店じゃないんだよ。                                       

Bそれじゃぁ、人種差別されたのかい?                                  

      日本人大事な客アルヨ。                                      

そんな事されたら怒るアルヨ。                                     

 とにかく不思議に思いつつ、ワインの入ったグラスの首を持って外のテーブル席に着きました。私達と入れ替りに隣のテーブルの客が店を出て行き、そのテーブルの上には飲み終えたワイングラスが二つ残されていました。暫くすると、一瞬強い風が吹いたために、テーブルクロスがフワッと持ち上がり、空になっていたワイングラスが吹き飛んでテーブルから落ちたのです。

 「アッ!」と思った瞬間、グラスは勢いよく転がって床に落下してしまいました。石造りの床に落ちた瞬間、今度は思わず「エッ!」と声が出てしまいました。

      B:「アッ!」の次は「エッ!」だって?                                    

 その時聞いた音はグラスの割れる音ではなく、カラカラカラという音でした。グラスは割れるどころか床の上を風に任せて勢いよく転がって行ったのです。

そう、そのグラスはガラス製ではなく、思いのほかプラスチック製だったのです。

      B:割れなくて良かったけど                                          

        レストランでどうしてプラスチックのグラスなんか使うの?                       

   A:とにかく解らないことが多いんだよね。                                    

 暫く考えているうちに、店のお嬢さんがワインを別のグラスに入れ替えた意味に気が付きました。店の中で飲む客にはガラス製のグラスで出し、外のテーブルで飲む客にはプラスチック製のグラスで出していたのです。

 外のテーブルは店員の目が届きにくく、客が帰ったあとも忙しくてすぐに後片付けが出来ない事が有るようです。その間に強い風が吹いてグラスが飛んで割れてしまう事を想定していたのです。現に私が席に座っている間も、強い風がヒューヒュー吹いきて、遠くの無人のテーブルで飲み終えたグラスが吹き飛ばされていました。プラスチックのグラスなら割れる心配はありません。

 過去に実際そういう事が何度も有ったのでしょう。長年商売をやっている人達のやる事には、それぞれ意味が有るのだなあと、妙に感心したひと時でした。

      B:はぁ、そうだったんだ。                                           

        いいねぇ、臨機応変なイギリス人。                                      

        店員は客を差別したんじゃなくて、区別していたんだ。                          

   A:でも、日本だったらプラスチックのグラスなど使わずに                             

     テーブルの片づけを頻繁にするよう教育するだろうね。                             

      B:いいねぇ、格式に拘る日本人!                                     

 それにしても、首を持って運んだグラスが、プラスチック製だと気付かなかったとは何たる事でしょう。日頃はガラス製品が好きで、いいガラス製品があるとよく買い集めていたのに。

A:しかも、あのプラスチック製のグラスは                               

きれいに磨き上げられていて随分キラキラ光っていたなぁ。                      

ワインが入っていなければ、軽さですぐに判ったのに・・・・                    

B:なんだ、そんな程度のガラス好きかぁ。                            

A:レストランでプラスチックのグラスを使っているなんて、誰が思う!                

 一旦思い込みをすると疑いの入り込む余地は全く無いのであ~る。しかもその時、ワイングラスにもプラスチック製のものがあるという事を初めて知った私でした。

お金が使えないの怪?

イギリスのポンド紙幣は、イングランドイングランド銀行が発行する紙幣が全国的に通用します。スコットランドにはスコットランド銀行のほか二つの銀行が発行する紙幣が有ります。従ってイギリスには同額の紙幣でも、四種類の紙幣が存在する事になります。

イギリス南部のイングランドでは、北部のスコットランドの紙幣が使えない場合がよく有ります。私も実際にそれらしき経験をした一人です。イングランドのスーパーマーケットでワインを買いに行った時のことです。レジでスコットランド銀行発行の50ポンド紙幣を差し出したところ、レジの若い女性はその紙幣を珍しそうに眺めまわした後、店内電話で店のマネージャー

らしき人を呼び出しました。

 跳んで出て来たマネージャーもその紙幣の裏表を何度もひっくり返して見て、今度は店の事務所に電話をし始めました。電話が終ると、今度は私の支払ったスコットランド紙幣を、紙幣鑑別機らしき機械にかけて調べ始めたのです。そして検査の結果、その紙幣の使用が目出度くOKとなりました。

     お~、うまいことやったね。

   ん????

    何かまずい事やった?

     いやいやこれでやっと旨い酒が呑めるんでしょ?

   何か疑っているね。

ニセ札を持って行った訳ではないんだよ。

イングランドの彼らにとってはスコットランド紙幣は正体不明のお札だったようです。イギリスでは50ポンド紙幣(日本円で約7千円弱)自体があまり流通しておらず、スーパーや小売店で出すとあまりいい顔をされません。ましてスコットランドの50ポンド紙幣など、イングランドに住むレジの若い女性もマネージャーも見たことが無くて、受け取っていいものかどうか心配だったようです。そこで経理担当者に電話して、銀行ですぐにイングランドの紙幣に交換できるのかを確認していたのではないかと思いました。

     それにしても不便なお札が有るもんだ。

 

日本円をこのスコットランド紙幣に両替する時にも面白い体験をしました。

両替をしようと思ってエジンバラの中心部から少し外れたところにあるザ・ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドという銀行の小さな支店に行った時の事です。窓口の若い女性行員に1万円札数枚を差し出してポンドへの両替を申しこみました。彼女はその1万円札の裏表を何回もひっくり返しながら珍しそうに眺めたあと、こんなお札見た事が無いというような顔をして困ったように首を傾げていました。

そして隣の鼻メガネを掛けた、いかにもどっしりと安定感のある年配のおばちゃん行員と一言二言ことばを交わすと、おばちゃんから5センチもある分厚い本を受け取って目次を頼りにパラパラとめくり始めたのです。それは世界中の紙幣の見本が載っている本でした。日本紙幣のページを探り当て、何種類かある歴代の1万円の中から私が差し出した1万円札と同じものを見付けた彼女は、見比べる事しばし。やっと納得したように、にっこりとした笑顔をこちらに向けて両替用のポンド紙幣を数え始めました。

駄目だと言われたら怒るよ、

こちとら江戸っ子だい!ってかい?

   我が1万円札は、

イングランドでは正体不明のスコットランド紙幣とは訳が違うんだい!

でも、紙幣鑑別機に掛けられなかっただけでも素直に良しとするか。

  本物のお札が解らない位だからニセ札検査も出来ないんじゃない?

   そう言えばそうだね。

   という事は・・・・・・・・・・だね。

     ヤバい事に気が付いちゃったね。

   よせよせ、そんな事しちゃいけないよ。

その分厚い本を覗き込むと、そこにはまさしく日本の歴代の千円、5千円、1万円紙幣の写真が載っていました。小さな支店の若い窓口銀行員にとっては、初めて目にした日本円だったようなのです。私にとっては初めて目にした「世界の紙幣の本」でした。自分の名前とパスポート番号をサインし、やっとのことでポンド紙幣を手にする事が出来ました。

イングランドで使えないスコットランド紙幣なんて不便極まりないと思う以前に、何で同じ国なのにそんな複雑な事をしているのと言いたくなります。スコットランドは現在でも自前の貨幣を発行出来る程、イギリスの歴史の中で強い力を持っていると言う事なのでしょう。

いつでもイギリスから独立してやるって魂胆かな?

   そう、最近のスコットランドの地元の人たちの約半数位は、

イギリスからの独立に賛成していると言われているんだ。       

ちなみに、このスコットランド紙幣は日本の銀行に持ち込んでも、円に両替をする事が出来ない厄介な代物なのです。スコットランドから帰国する際には、スコットランド紙幣を全て使い切るか、イングランド紙幣に交換しておかないと、日本に持ち帰って来ても紙屑同然になってしまうのです。この紙屑同然になったお札を生かして使うには、もう一度スコットランドに行くしかありません。

 

はじめてのブログです。

海外旅行をした時に、これは何故?どうしてこうなの?と思うことがいろいろ有りました。面白い話や常識では解らない話など物語風に少しづつ書いて行きたいと思います。少し長めの文にはなりますが、宜しくお付き合いください。

 

先ずは『あらら誰が仕組んだの怪?』から。

 

 

■ あらら誰が仕組んだの怪? ■

 ある放送局の招待でヨーロッパ視察旅行に出かけた折です。国内二十数社のメーカーの社員と一緒に、ドイツで食品見本市を見た帰りにミラノに寄りました。市内で名立たる古い大聖堂ドゥオーモの見学を終え、広島、名古屋からこの旅行に参加していた同行者二人と共にホテルに帰ろうと、大聖堂前広場のタクシー乗り場に向かいました。

 イタリア語も話せない私たちは、カタコトの日本語でヒルトンホテルの名前を言って、地図を出して小柄な運転手にホテルの場所を指し示しました。「オーケー、オーケー」とイタリア語で多分言ったであろう運転手は鼻歌を口ずさみながら上機嫌で運転席へ。車はエアコンもなく、窓は手動式、シートはヒビだらけの古くて小さいタクシー!日本では絶対に走っていない、廃車寸前のような頼りないタクシーでした。まあいいかっ!3人はミラノの空気を目いっぱいに吸い込みたくて、手動の窓をグルグル回して全開でスタート。車は古いがそよ風が通り抜けて気分は最高!

運転手もニコニコマークの顔でアクセルを踏みはじめ、明るく何かを言っている。しばらくすると、何処からともなく歌声が聞こえてきた。なんと運転手が歌っているんです。これがなかなかいい声をした上手な歌なんだ!

   A:こりゃ、カンツォーネだよ。

    聞いたことある歌だぞ。

    さすがイタリアのタクシーだ。

    サービスいいねぇ。

    やはりミラノはこうでなけりゃね。

    いいタクシーにあたったねぇ。 

    ホテルまでは直線距離で3㎞、時間にして10分くらいと聞いていたのですが、我々が見事な歌に気を取られている間に、車は市街地のはずれと思われるような所をどんどん疾走。途中でおかしい事に気が付いた我々は、後部座席から運転手に地図を差し示して行き先が違うと口々に言い始めた。すると運転手がハンドルを握っていない方の肘を、黙っていろとばかりに突き出したものだから、その肘が地図に当たって地図はグジャグジャ。車内は3人の日本語で騒然。

   A:腹立つう~!

運転手は我々を無視してそのまま無言で運転を続行。そうこうしているうちに車は市街地を抜けて人家もまばらな郊外の広い直線道路を更にまっしぐら。

     B:誘拐されたんじゃないの?

      身代金持ってる?

   A:そんなもの持っている訳ないじゃない。

     B:50万でも60万でもいいんだけど。

   A:そんなに安いのかい?我ら3人で。

     B:旅行中なんだからそれ位でまけといてもらえば?

   A:馬鹿言っちゃいけないよ。

    びた一文出さないよ。

 30分以上走ったあと、車が止まったところは学校の敷地のような広々とした場所。ホテルどころじゃない。どこがヒルトンなんだ!車を降りた3人はそこでもう一度地図を突き出して、ホテルの場所はこっちだと詰め寄ったのです。運転手は渋々車を出して、今来た道を戻り始めました。その間にもメーターはどんどん上がっていきます。

   A:何やってんだ、コイツぅ!

 明らかにボラれているのです。はるばる日本から渡ってきたカモ達よ、三羽連れで良く来たなぁって。これが、話に聞いていた、たちの悪い運転手そのものだったのです。目の前でカチャカチャ上がっていくメーターを睨みつつ、どうしようかと相談し合う3人。1人は「仕方がないから半分だけ払おうか。」もう1人は「間違えたんだから仕方ないよ。全部払った方がいいよ。払わないで警察沙汰にでもなったらあとで面倒じゃない。」私は、「こんなミラノの田舎運転手に舐められてたまるか!」運転手が理解出来っこない日本語で、「こいつは初めから我々をいいカモだと思っていたんだ。払う必要なんてないよ」と二人を説得。車がホテルに向かっている間じゅう、益々腹が煮えくり返って来た。

     B:今度はほんとにホテルに向かってんの?

   A:えっ!

    そこまでやるかぁ?

    とにかくこんな運転手は絶対許せない!

    歌でごまかして、料金をごまかして!我々をコケにして!

    うーん、こんな運転手は抹殺してやるぅ~!!! 

 やっと着いたホテルの前で、事前に旅行会社の添乗員から聞いていたこれ位という料金だけを運転手に手渡して降りようとした時に、運転手が何だか解らない言葉でまくし立ててきた。怒り心頭の私は車を降りるや否や、運転手に向かって思わず大声で怒鳴ってしまった。

吉本の女性お笑いコンビ、ハリ□□ボンの丸顔眼鏡の「はる〇」嬢がよく口にしていた、あの品の有るセリフを。

「バカ□□ー、〇ざけん〇〇〇~よ!」

ミラノのヒルトンホテルの入り口で、運転手が日本語を解らないのをいいことに。

     B:随分思い切った発言だね。

   A:運転手がかなり小柄だったしね。

    返り討ちになる恐れも無かったから

    その辺は意識していた。

 運転手は何を言われたのか解らずに車から降りて来た。こっちの勢いだけは分かったのだろう。その時同行の二人がとった動作が見ものだった。「驚いたね、言っちゃったよ、東京の人は凄いね」と言いながら、普段おとなしい私の顔をまじまじと見る二人の目といったら、ほとんど尊敬のまなこ。もう一方のまなこで、追ってくる運転手を何度も振り返りながら、運転手に何かされるんじゃないかと及び腰の二人。

     B:腹が据わってないねぇ~。

私は後ろも見ずに、二人を引っ張ってそのままホテルへ。なおも大声でまくしたてて追いすがる私は運転手に向かって、またしても「はる〇」嬢の品の有るセリフを大声で発していた。 

「ふ〇〇〇じゃね~〇!」

     B:そんなに大きな声で怒鳴って、

周りに人がいるのに日本人の恥晒しだね。

   A:何を言ったかはイタリア人には解らないから大丈夫。

    暴力を振るった訳じゃないし、目には目をだよ。

     B:運転手としては乗せた時は、

      いい客に当たったと皮算用していたのにねぇ。

      随分こわいおニイさんに当たっちゃったんだね。

      憑いてないねぇ、この運転手は。

   A:日本の客はこうでなくちゃ。

    純粋無垢、公明正大、明朗会計、詐欺摘発。

     B:なんだい、そりゃ。

   A:その時浮かんだ気持ちさ。

     B:君子豹変、罵詈雑言、因果応報、痛快無比のほうが似合ってるけどね。

 ホテルのロビーに入ってほかの日本人仲間と話をしているところへ、ホテルのボーイがやって来て「タクシー代を払ってやってください。」だと。運転手の奴、ボーイに泣き付いたな。知るか!

タクシーに同乗した二人が話し合いの結果、メーター料金の半分を払ってやることにしたようだ。

   A:わしゃ知らんで!  

 料金を手にした運転手が、してやったりとばかりにお札を数えながらニコニコ顔で私の前を通る。私がちょっと足を突き出した途端に、手元のお札に気を取られていた運転手はこちらの期待通り見事に前のめりにスッテンコロリ。その拍子に舞い上がるお札。まるで映画の一シーン。映画だと舞い上がったそのお札を、横から飛び出して来たTシャツ姿の少年がかっさらって逃げて行く姿をカメラが遠目に追いかけて行って、余韻を残したままFINとなるんじゃない?なんだか名画みたい。場所はイタリア・ミラノのヒルトンホテルのロビー。主役はTシャツの少年でもなく、運転手でもなく、言葉使いが上品で足技が得意な中年の紳士(?)。

   A:バックにはどんな曲が似合うかなぁ。

     B:何でもいいよ。「蛍の光」でも流しときなさいよ。

   A:でも、やったやった!ウッシッシ!

これでやっと怒りが収まり之介。

2人が払った料金の3分の1は出してやろう。

     B:随分と威勢が良かったんだね。若い時は。

   A:私ゃ正義感が強いからね。こう見えても江戸っ子だい。

  

 翌日は観光バスに乗っての市内見学。朝一番に大型観光バスは一路ミラノでは有名なデザイン学校へ。走ること約四十分。到着したバスから降りて周りを見回してみて驚いた。何だか見たことがある景色だぞ。ミラノには知っている所なんかない筈だけど・・・何とそこは、昨日インチキタクシーに連れて行かれたニセヒルトンだったのです。無言で集まった三人は思わず顔を見合わせて、一斉に「何なんだ、これは!」「誰が仕組んだんだ!」「ドッキリTVじゃないの?」

     B:ウソ~ そんな事ってホントにあるんだ。

   A:ミラノって不思議なところだね。

     B:タクシーの運転手も随分粋な事をやる奴だったんじゃない?

      これこそミラノの怪だね。

 これが私の、異国でのタクシーにまつわる、いまいましくも清々しい思い出なのであります。