はじめてのブログです。
海外旅行をした時に、これは何故?どうしてこうなの?と思うことがいろいろ有りました。面白い話や常識では解らない話など物語風に少しづつ書いて行きたいと思います。少し長めの文にはなりますが、宜しくお付き合いください。
先ずは『あらら誰が仕組んだの怪?』から。
■ あらら誰が仕組んだの怪? ■
ある放送局の招待でヨーロッパ視察旅行に出かけた折です。国内二十数社のメーカーの社員と一緒に、ドイツで食品見本市を見た帰りにミラノに寄りました。市内で名立たる古い大聖堂ドゥオーモの見学を終え、広島、名古屋からこの旅行に参加していた同行者二人と共にホテルに帰ろうと、大聖堂前広場のタクシー乗り場に向かいました。
イタリア語も話せない私たちは、カタコトの日本語でヒルトンホテルの名前を言って、地図を出して小柄な運転手にホテルの場所を指し示しました。「オーケー、オーケー」とイタリア語で多分言ったであろう運転手は鼻歌を口ずさみながら上機嫌で運転席へ。車はエアコンもなく、窓は手動式、シートはヒビだらけの古くて小さいタクシー!日本では絶対に走っていない、廃車寸前のような頼りないタクシーでした。まあいいかっ!3人はミラノの空気を目いっぱいに吸い込みたくて、手動の窓をグルグル回して全開でスタート。車は古いがそよ風が通り抜けて気分は最高!
運転手もニコニコマークの顔でアクセルを踏みはじめ、明るく何かを言っている。しばらくすると、何処からともなく歌声が聞こえてきた。なんと運転手が歌っているんです。これがなかなかいい声をした上手な歌なんだ!
A:こりゃ、カンツォーネだよ。
聞いたことある歌だぞ。
さすがイタリアのタクシーだ。
サービスいいねぇ。
やはりミラノはこうでなけりゃね。
いいタクシーにあたったねぇ。
ホテルまでは直線距離で3㎞、時間にして10分くらいと聞いていたのですが、我々が見事な歌に気を取られている間に、車は市街地のはずれと思われるような所をどんどん疾走。途中でおかしい事に気が付いた我々は、後部座席から運転手に地図を差し示して行き先が違うと口々に言い始めた。すると運転手がハンドルを握っていない方の肘を、黙っていろとばかりに突き出したものだから、その肘が地図に当たって地図はグジャグジャ。車内は3人の日本語で騒然。
A:腹立つう~!
運転手は我々を無視してそのまま無言で運転を続行。そうこうしているうちに車は市街地を抜けて人家もまばらな郊外の広い直線道路を更にまっしぐら。
B:誘拐されたんじゃないの?
身代金持ってる?
A:そんなもの持っている訳ないじゃない。
B:50万でも60万でもいいんだけど。
A:そんなに安いのかい?我ら3人で。
B:旅行中なんだからそれ位でまけといてもらえば?
A:馬鹿言っちゃいけないよ。
びた一文出さないよ。
30分以上走ったあと、車が止まったところは学校の敷地のような広々とした場所。ホテルどころじゃない。どこがヒルトンなんだ!車を降りた3人はそこでもう一度地図を突き出して、ホテルの場所はこっちだと詰め寄ったのです。運転手は渋々車を出して、今来た道を戻り始めました。その間にもメーターはどんどん上がっていきます。
A:何やってんだ、コイツぅ!
明らかにボラれているのです。はるばる日本から渡ってきたカモ達よ、三羽連れで良く来たなぁって。これが、話に聞いていた、たちの悪い運転手そのものだったのです。目の前でカチャカチャ上がっていくメーターを睨みつつ、どうしようかと相談し合う3人。1人は「仕方がないから半分だけ払おうか。」もう1人は「間違えたんだから仕方ないよ。全部払った方がいいよ。払わないで警察沙汰にでもなったらあとで面倒じゃない。」私は、「こんなミラノの田舎運転手に舐められてたまるか!」運転手が理解出来っこない日本語で、「こいつは初めから我々をいいカモだと思っていたんだ。払う必要なんてないよ」と二人を説得。車がホテルに向かっている間じゅう、益々腹が煮えくり返って来た。
B:今度はほんとにホテルに向かってんの?
A:えっ!
そこまでやるかぁ?
とにかくこんな運転手は絶対許せない!
歌でごまかして、料金をごまかして!我々をコケにして!
うーん、こんな運転手は抹殺してやるぅ~!!!
やっと着いたホテルの前で、事前に旅行会社の添乗員から聞いていたこれ位という料金だけを運転手に手渡して降りようとした時に、運転手が何だか解らない言葉でまくし立ててきた。怒り心頭の私は車を降りるや否や、運転手に向かって思わず大声で怒鳴ってしまった。
吉本の女性お笑いコンビ、ハリ□□ボンの丸顔眼鏡の「はる〇」嬢がよく口にしていた、あの品の有るセリフを。
「バカ□□ー、〇ざけん〇〇〇~よ!」
ミラノのヒルトンホテルの入り口で、運転手が日本語を解らないのをいいことに。
B:随分思い切った発言だね。
A:運転手がかなり小柄だったしね。
返り討ちになる恐れも無かったから
その辺は意識していた。
運転手は何を言われたのか解らずに車から降りて来た。こっちの勢いだけは分かったのだろう。その時同行の二人がとった動作が見ものだった。「驚いたね、言っちゃったよ、東京の人は凄いね」と言いながら、普段おとなしい私の顔をまじまじと見る二人の目といったら、ほとんど尊敬のまなこ。もう一方のまなこで、追ってくる運転手を何度も振り返りながら、運転手に何かされるんじゃないかと及び腰の二人。
B:腹が据わってないねぇ~。
私は後ろも見ずに、二人を引っ張ってそのままホテルへ。なおも大声でまくしたてて追いすがる私は運転手に向かって、またしても「はる〇」嬢の品の有るセリフを大声で発していた。
「ふ〇〇〇じゃね~〇!」
B:そんなに大きな声で怒鳴って、
周りに人がいるのに日本人の恥晒しだね。
A:何を言ったかはイタリア人には解らないから大丈夫。
暴力を振るった訳じゃないし、目には目をだよ。
B:運転手としては乗せた時は、
いい客に当たったと皮算用していたのにねぇ。
随分こわいおニイさんに当たっちゃったんだね。
憑いてないねぇ、この運転手は。
A:日本の客はこうでなくちゃ。
純粋無垢、公明正大、明朗会計、詐欺摘発。
B:なんだい、そりゃ。
A:その時浮かんだ気持ちさ。
B:君子豹変、罵詈雑言、因果応報、痛快無比のほうが似合ってるけどね。
ホテルのロビーに入ってほかの日本人仲間と話をしているところへ、ホテルのボーイがやって来て「タクシー代を払ってやってください。」だと。運転手の奴、ボーイに泣き付いたな。知るか!
タクシーに同乗した二人が話し合いの結果、メーター料金の半分を払ってやることにしたようだ。
A:わしゃ知らんで!
料金を手にした運転手が、してやったりとばかりにお札を数えながらニコニコ顔で私の前を通る。私がちょっと足を突き出した途端に、手元のお札に気を取られていた運転手はこちらの期待通り見事に前のめりにスッテンコロリ。その拍子に舞い上がるお札。まるで映画の一シーン。映画だと舞い上がったそのお札を、横から飛び出して来たTシャツ姿の少年がかっさらって逃げて行く姿をカメラが遠目に追いかけて行って、余韻を残したままFINとなるんじゃない?なんだか名画みたい。場所はイタリア・ミラノのヒルトンホテルのロビー。主役はTシャツの少年でもなく、運転手でもなく、言葉使いが上品で足技が得意な中年の紳士(?)。
A:バックにはどんな曲が似合うかなぁ。
B:何でもいいよ。「蛍の光」でも流しときなさいよ。
A:でも、やったやった!ウッシッシ!
これでやっと怒りが収まり之介。
2人が払った料金の3分の1は出してやろう。
B:随分と威勢が良かったんだね。若い時は。
A:私ゃ正義感が強いからね。こう見えても江戸っ子だい。
翌日は観光バスに乗っての市内見学。朝一番に大型観光バスは一路ミラノでは有名なデザイン学校へ。走ること約四十分。到着したバスから降りて周りを見回してみて驚いた。何だか見たことがある景色だぞ。ミラノには知っている所なんかない筈だけど・・・何とそこは、昨日インチキタクシーに連れて行かれたニセヒルトンだったのです。無言で集まった三人は思わず顔を見合わせて、一斉に「何なんだ、これは!」「誰が仕組んだんだ!」「ドッキリTVじゃないの?」
B:ウソ~ そんな事ってホントにあるんだ。
A:ミラノって不思議なところだね。
B:タクシーの運転手も随分粋な事をやる奴だったんじゃない?
これこそミラノの怪だね。
これが私の、異国でのタクシーにまつわる、いまいましくも清々しい思い出なのであります。